銭湯アート回顧展ページ

富士見湯の坂巡り

白山通りのオリンピックから、斜めに入って少し行くと富士見湯がある。新坂の下、西片の台地の西側崖下一体は、昔は丸山福山町と呼ばれていた。「親父がこの地にあった大正期からの銭湯を買い取ったのが昭和12年。16年生まれの僕は、戦争中は疎開してた。高射砲があった後楽園に近かったから、砲撃の破片を受けてバカーンと屋根に穴が開いたって後から聞いた。でもこの辺は焼けなかったの」と昔を語るのは浦西康友さん。
 現在、文京区で唯一残っている番台の銭湯は、昭和31年に建てたもの。硬い欅の木でできた黒光りする番台は、六十年の歳月を経てお金を乗せるところだけが凹んでいる。置いた四百六十円がお賽銭のように見えてきて、なんだか御利益ありそうだ。
 「うちは、熱好きの客が多いからみんなパッと入って、サッと上がる。ゆっくりされたんじゃ、回転率が悪くなっちゃうよ(笑)」と康友さん。いつまでも元気で頑張ってほしい。
 さて、丸山福山町は、樋口一葉終焉の地。新坂を上って、すぐ南の所に夏目漱石の旧居跡がある。そのまま進んで、しばし西片界隈の散策を楽しもう。清水橋から言問通りを見下ろし、川であった頃の風景を夢想。東大正門前に辿り着き、やっと時空の感覚が今に戻った。