ふくの湯の坂巡り

本郷通りの駒本小前と、不忍通りの動坂下を南北に結ぶ道沿い、千駄木にふくの湯はある。夏目漱石「坊ちゃん」の最後の一文、「だから清の墓は小日向の養源寺にある」の養源寺が、実はこの地にあるのはトリビア。
 ふくの湯は、和モダンな装いが若者にも人気の銭湯。「とにかく隣近所の人を幸せにできるのが銭湯。手前勝手だけど、ここに来れば、癒される、いろんな人に会える、『あ〜、ふーん』なんて言いながら至福の時を過ごすことができる」と、二代目・村西彰さんはその思いを語る。  
 朝から動坂や団子坂を上ってきて、午前中から入れるのがうれしい。「江戸時代の風呂屋は、もっと早くから開けてたよ。ほんとは24時間やればいいけど、掃除する時間がなくなっちゃうからね(笑)」
 期待するのは倅の将明さん。「五年前、番台からフロントになって客前に出るようになった。それからですね、三代目としての自覚ができたのは」と言う。
 さて、『帰りは適当に行けば不忍通りに出られるだろう』なんて安易に考えてはいけない。千駄木の路地はどこも袋小路。迷い込んで右往左往している車もよく見かける。でも将明さんおすすめの坂をひとつ紹介。「悪ガキの頃は、大給坂を自転車で上れたら一人前、立ち漕ぎせずに上ったら尊敬された」思い出の坂だとか。